ときとばあい

『逃げる』 
つかまらないように走って去る。危険な状態や具合の悪い状態から抜け出す。面倒なことに近づかないようにする。関係することを避ける。スポーツなどで、先行を保って追いこされないようにする。正しい方向・状態からずれる。(三省堂 大辞林 第三版 より一部抜粋)


「逃げる」というと多くの人がネガティブな印象でとらえる。

私は「時と場合による」また「個人にもよる」と思う。逃げることで、自分を守ることにも、相手を守ることにも、状況をうまく変えることにもつながる場合がある。と、私は思う。

状況によっては逃げるのが最良の選択、ということもある。というのが今回の話です。


世の中には「故意に人を傷つける」という人が存在する。

その理由は様々だと思うけれど、まずほぼすべてが加害者本人の問題だろうと断言したい。

それがどんな事情であれ、それは故意に人を傷つけていい理由にはなりえないし、その事情を被害者が理解する必要もない、と私は思う。

理不尽に傷つけられていい人など、この世には存在しない。


先日、仕事で久々にそういう人と密に接する機会があった。いわゆる、精神的DVの気(け)がある人。

侮蔑的な態度をとる、話しかけると大きな溜息をついて睨みつける、無視をする、物を投げるように渡す(または叩きつける)等。

接しているとわかってくるのは、これは『私だから』ではないということ。相手が私でなくても、おそらくそうなっていただろう。明らかに当人の心の問題から起きている言動で、私の反応は関係ない。心の中では、はらわたが煮えくり返る気持ちになることもあったが、実際、私はその人の言動に振り回されるような反応は一切返さなかった。


しかし、3週間続いた精神的DVは4週間目に突如、何の前触れもなく終わった。

驚くことに、相手は謝ることもなく、気まずい様子もなく、まるでこれまで何もなかったかのようにすべてを一方的にリセットして接してきたこと。罪悪感も感じずに、自分自身の都合の為に無関係の他人を平気で傷つけていることが、私にはただただ怖すぎた。

何度も言うが、私は始まりも終わりも何もきっかけを作った覚えはない。

当人の中で気が変わった、それだけだと思う。そして、こういう人はまた突然何かが引き金となって同じことを繰り返す。私はそうなる前に、物理的距離をとる他ないと思い仕事を辞めた。


こういう人は程度にもよるがわりとどこにでもいるので、我慢して耐えている人も多いと思う。

しかし、我慢すればするほどダメージは大きくなるので、絶対に我慢せず距離をとることが自分を守る唯一の方法だと経験上私は強く言いたい。

というのも、過去(10年近く前、今回とは違うタイプの人だったけれど)に2年間耐え続けた経験があり結果、ダメージを克服するのに3年近くかかった。そして、そのダメージは傷跡のように心の中から消えることはあり得ないのだと、今回思い知った。


過去の経験から、前回より遥かに精神的ダメージは回避できていたので、ツラいことはツラいがもう少し様子を見ようと思っていたが、3週間目の帰り道、突然表現しがたい恐怖のようなものに襲われ、それをきっかけに「即、辞めよう」と決めた。

激しい動悸と全身を覆いつくすように足元から駆け上がってくる恐怖、手が震えて不安な気持ちに支配されていく感覚・・・。なんとも表現しがたいがこのまま私はどうなるんだ、という恐怖しかなかった。

初めてのことで驚き、調べてみてわかったが、おそらく『フラッシュバック』だったのだと思う。


フラッシュバック (flashback) 
強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様に夢に見たりする現象。 心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害の特徴的な症状のうちの1つである。


結局2ヶ月で辞めたが、それでも辞めた後の精神的ダメージは自分が感じているよりも大きく、今もツラい気持ちは続いている。

平気で故意に人を傷つける人と一緒にいてはいけない。第三者から見れば「忍耐力がない」「逃げてるだけ」などととられるかも知れないけれど、その第三者が後から襲ってくるこのダメージをどうにかしてくれるわけでもないのだから、他人を気にする必要などなく、即逃げることをおすすめしたい。

それが自分を守り、大切にする1つの方法だと思うから。これは程度によるのでなんとも言えないが、話の通じる相手なら言ってどうにかなるかも知れない。が、大抵のこの手の人は話が通じないと思う。または周りの信頼できる人に相談して状況を変える。

どれを選択するにしても、物理的に距離をとるという結果に持っていくのが最良と思う。


繰り返しになるが、理不尽に傷つけられていい人などこの世には一人もいない。 

facomi to usachan

Tomoko Terahara / NANANOKO_pianeta Illustration